【グリーンブック 感想】あなたの言葉の意図は伝わっていますか?
作品・出演者情報
監督
ピーター・ファレリー
キャスト
- トニー・“リップ”・ヴァレロンガ - ヴィゴ・モーテンセン
- ドクター・ドナルド・シャーリー - マハーシャラ・アリ
- ドロレス・ヴァレロンガ - リンダ・カーデリーニ
- オレグ - ディメター・マリノフ
- ジョージ - マイク・ハットン
- ルディ - フランク・ヴァレロンガ
- キンデル - ブライアン・ステパニック
- ロスクード - ジョー・コーテス
- アミット - イクバル・セバ
- ジョニー・ヴェネス - セバスティアン・マニスカルコ
- チャーリー - ピーター・ガブ
- モーガン - トム・ヴァーチュー
- ボビー・ライデル - ファン・ルイス
- プロデューサー - P・J・バーン
- アンソニー - ルイ・ベネレ
- ニコラ - ロドルフォ・ヴァレロンガ
- フラン - ジェナ・ローレンゾ
- ルイ - ドン・ディペッタ
- リン - スハイラ・エル=アーター
- フランキー - ギャビン・ライル・フォーリー
- カーマイン - ポール・スローン
- マイキー - クイン・ダフィ
- ポーリー - ジョニー・ウィリアムズ
- ゴーマン - ランダル・ゴンザレス
個人的レビュー
人種差別という大きなテーマを扱った作品だが、重すぎず、ハートフルな内容に仕上がっていた。
この映画では、「コミュニケーション」のすれ違いが様々な場面で出てくる。
イタリア系アメリカ人のトニーは、粗暴で荒くれ者。日本で言えば、江戸っ子の中でも血気盛んでトラブルを起こしがちな人間だ。一方で音楽家のドクターは物静かな優等生タイプ。
この時点で様々なすれ違い、文化的衝突があると予想できるだろう。しかし、この作品で扱われているすれ違いは少々異なる。
トニーは白人で、周囲と同じように黒人を蔑んでいた一人だ。だが、それは黒人が本当に嫌いというわけではない。知らないだけだった。
ドクターにフライドチキンを勧める時、彼は「黒人のソウルフードだろ?」と声をかける。差別に敏感なドクターはそれを「美味いから食え」というメッセージとしては捉えていない。しかし、トニーは純粋にケンタッキー・フライド・チキンの美味さをドクターに伝えたいだけだった。そこに差別的な意味合いなんてない。
トニーは後先を考えず、我慢できないのが欠点でもある。カッとなって手を出してしまいがち。また、自分の要求は臆さず伝えるようにしている。だが、それはドクターにとって足りない部分でもあった。黒人だから、差別されてしまうから、分かってもらえないからと、どこかあきらめてしまっている。
そんなドクターにトニーは言う。
「寂しいときは自分から手を打たなきゃ。」
分かってくれるかどうかは、言ってみないと分からない。ドクターは、トニーの行動や言動からそれを感じとっていき、最後の演奏会のシーンで取った行動に繋がっていく。
コミュニケーションは非常に難しいものだ。現代ではLINEでコミュニケーションを取る機会も増えたが、意図せず相手を傷つけてしまったり、相手の真意が分からずに困惑することはある。この作中では、トニーが家族に対して送る手紙がその象徴となっている。トニーの手紙は妻に届くが、トニーの意図したことが伝わっているかどうかは、分からない。この距離感のあるコミュニケーションが、トニーとドクターのコミュニケーション、そして白人と黒人のコミュニケーションを示しているのだろう。
トニーとドクターは道中で何度もコミュニケーションがすれ違う。二人に悪気はないが、過去の経験や環境がそうさせている。
アメリカの人種差別は徐々に薄くなってきていると感じるが、それはこのグリーンブックのようなエピソードがいくつも重なり合って生まれているのだと感じた。
良かった点
ドクターの描かれ方が秀逸だった。白人から差別され、黒人からも浮いている。そんな彼が、演奏会を中止して向かった店で黒人を相手に演奏し、言葉ではないコミュニケーションによって受け入れられたシーンは非常に印象的だった。そして、実は言語的コミュニケーションによらず、音楽に合わせて踊り、飲み、笑うことが、結局は人をポジティブにつないでいくのだろうとも感じた。
残念だった点
時代背景を知らずに見たら、テーマに気づかずに抑揚のない作品だと思われてしまうかもしれない。最低限の教養が必要になる映画だと思う。
終わりに
差別は少なからずどこの国にもあるが、それを乗り越えていくためにはトニーのようにまっすぐで人情味あふれる人間と、ドクターのように差別に屈せず世界を切り拓く気持ちが大切なのだろう。
何度でも見返したい、いい作品だった。
環境に染まることの必要性を説く「プラダを着た悪魔」レビュー
The Devil Wears Prada (1/5) Movie CLIP - Gird Your Loins! (2006) HD
作品・出演者情報
監督
デヴィッド・フランケル
キャスト
- ミランダ・プリーストリー - メリル・ストリープ
- アンドレア・サックス - アン・ハサウェイ
- エミリー・チャールトン - エミリー・ブラント
- ナイジェル - スタンリー・トゥッチ
- ネイト - エイドリアン・グレニアー
- クリスチャン・トンプソン - サイモン・ベイカー
- リリー - トレイシー・トムズ
個人的レビュー
メリル・ストリープ、アン・ハサウェイの二人が主演を務める超人気映画「プラダを着た悪魔」だが、アン・アサウェイのファンとしてこれまで見てこなかったのを少し後悔している。
もちろん、他の映画作品もとても面白く、アン・ハサウェイという女優の良さは知っているつもりだった。しかし、プラダを着た悪魔における演技もまた非常に素晴らしいものだった。
あらすじは、ニューヨークで新聞記者を目指すアンドレア(アン・ハサウェイ)が、1年間働けばその後のキャリアが広がると言われている超一流ファッション雑誌のランウェイ編集部にて奮闘するというもの。ランウェイのカリスマ編集長がメリル・ストリープ演じるミランダという女性で、世間からはカリスマ、雑誌業界からは鬼と称されている。ミランダから戦場の矢の如く降り注ぐ無理難題を、アンドレアはボロボロになりながらも解決していく。
この映画を見て思ったのは、本記事のタイトルにも書いた通り「環境に染まる必要性」である。アンドレアはランウェイ編集部にジョインした直後は、ミランダを神様のように扱い、奴隷のように雑用をこなす人々を見ておかしいと愚痴を溢していた。しかし、当の本人たちはそんなことは思っておらず、自分のキャリアを切り開くために一心不乱に働いているのである。
昨今日本で叫ばれている働き方改革であるが、その焦点は残業時間の削減に当てられていることがほとんどだ。これは前提として、人々の意識の中に「働くことは嫌なこと」という思いがあるからだ。もちろん、ある程度の残業時間の規制は必要である。どんなに魅力的でやりがいのある仕事だとしても、人間としての限界はあるから。
しかし、本当の働き方改革の理想は、「好きな時に、好きな人と、好きなだけ働ける」だと思う。その意味でいうと、日本の働き方改革はまだまだ先の長い話だ。
ランウェイ編集部の働き方を見てみると、時間的拘束は大きいが、キャリアを見据えて尊敬できる人と一緒に働くという点ではいいのかもしれない。
さて、アンドレアはランウェイ編集部の雰囲気に自分を適応させていくわけだが、その方法として同僚のナイジェルに服を選んでもらう。この辺の動きは映画チックだ。ミランダの扱いに文句を言うアンドレアに対し、嫌なら辞めればいいと言い捨てたナイジェルが、その直後に彼女の服を選んでいる。ましてや直属の部下というわけでもなさそうなので、普通の社会では到底起こり得ないだろう。
これは個人的な推測だが、アン・ハサウェイが綺麗だから助けたのか、それとも裏で色々あったかのどちらかではないか。まあ、一番綺麗な回答としては「職場をみすぼらしい格好で歩くのをファッション業界の人間として許容できなかった」だと思うけど。
それにしても、あの細いアン・ハサウェイが作中では太っている扱いになっているのがびっくりした。いくら何でも無理があるやろと。笑
同僚と比較しても太っている感じはしないし、そんな設定では実際にモデル役として登場する女性のスペックがとんでもないことになる。身長173cmで、なおかつあの美貌。それを超えるキャスティングって難しいのではないか?
まあ、日本人の感覚だと難しいってだけかもしれないけど。実際、パーティー会場でアンドレアが話しかけた女性はとても綺麗だった。
太っていて何が悪いのだという意見ももちろんあるが、一部の場合をのぞいて体型の維持ができないというのは内面の弱さを物語っている。理想とする姿に近づくため、絶えず努力することで4サイズの服が着られるようになるのだ。それは、外見的な美しさではなく、内面の美しさが外見に現れているということだ。同僚のエミリーはパリに行くために体を絞っていた。それがキャリアを良い方向へ導くと信じて。
外見から環境に馴染む努力をしたアンドレアは、それだけで周囲からの目が変わり、日々の仕事に自信を持って取り組むことができるようになる。自信を身に纏うことで、仕事も進めやすくなったのだ。また、彼女を助けてくれる人間にも出会う。その環境にあった服装を心がけるだけで、いくつもの壁を乗り越えることに成功した。
一方で、昔からの友人や彼氏とはうまくいかなくなる。環境が変わり、思考も仕事に偏ってきたアンドレアは、愚痴を言い合っていた仲間のもとでは居心地が悪くなっていったのだ。
これは誰にでも起こりうる。特に、大学まで一緒にいた友人と社会に出てから飲むと痛感することが多い。自分は上司の愚痴を言いまくっている中、友人は仕事のやりがいや夢を語る。そういう違いは月日が経つと大きくなっていき、気付いた時には一緒に飲むことができなくなってしまっているものなのだ。ガチの成功者が同窓会に顔を出さないのと同じことだ。
環境の変化は痛みを伴う。しかし、自分の望む未来には必要な痛みなのだ。アンドレアの場合、ニューヨークで記者をやるためには、仲間と仕事の愚痴を言い合っているようではダメだったということだ。バリバリに仕事をこなし、世界に影響を与え続けるような人のもとで悔しい思いをしながら前に進むことが、彼女には必要だったのだ。
私たちの生活に落とし込むと、進学や転職をするときに感じる不安が当てはまる。成長に必要な痛みを受け入れ、飛び込んだ環境で適応して頑張っていけるかどうかで人生は変わっていく。
当たり前のことだが、改めてその大切さを感じられる映画だったと思う。
良かった点
アン・ハサウェイが綺麗だったところ。笑
ダサいファッションをしているとはいえ、隠しきれない美しさがあった。
作品としては、環境の変化によって付き合う人が変わっていく痛みが描かれていて良かったと思う。
残念だった点
理不尽なリクエストが意外と簡単にこなされていてリアルさがない。さすがに無理は無理だろという感じがある。笑
終わりに
環境に染まることは、これまでいた人が離れてしまうリスクを負っている。
でも、キャリアを考えたときにその選択ができる気持ちの強さは持っていたいものだ。
頭を空っぽにして見れるエロコメディ「ビキニ・カー・ウォッシュ」レビュー
All American Bikini Car Wash (2015) | American Comedy Movie | Latest Hollywood Movie
作品・出演者情報
監督
ニムロッド・ザルマノウィッツ
キャスト
- ジャック・カリソン
- ジェイソン・ロックハート
- ケイラ・コリンズ
- ミンディ・ロビンソン
- エリカ・ジョーダン
- アシュリー・パーク
- スカーレット・レッド
個人的レビュー
お盆休みということもあり、何も考えなくていい映画を見たいと思ってチョイスした「ビキニ・カー・ウォッシュ」だが、個人的には予想通りの作品でよかった。
簡単なあらすじは、経営学の単位を落としそうなジャックが教授から洗車場の経営を任され、利益を出したら単位を認定するという約束のもと、ビキニを着た女性が洗車をするサービスを思いついて実行するというもの。
おそらく、アンビリーバボーか世界丸見えで紹介されていたのを見たことがある人も多いのではないだろうか。私もその一人で、そういったサービスがアメリカにあることは知っていた。当時は馬鹿げたサービスだなと思っていたが、実際に経営を学んで見ると需要と供給がマッチしたいいサービスだということに気付いた。
作品中でジャックがしきりに気にしている通り、一般的なビジネスから見れば邪道なサービスと言える。本来であれば洗車の技術や付帯サービス、会員制などを導入して利益を拡大していくことが求められている(特に経営学の単位がかかっているのであればなおさら)が、ビキニのお姉さんの性的な魅力を頼りにして通常の洗車よりも高い値段でサービスを提供しているので後ろめたさがある。職業に貴賎はないが、王道のビジネスとは言えないだろう。
だが、個人的にはジャックのビジネスの進め方は理に適っていると思った。まず彼は、友人のヴェックスと一緒にビキニ洗車を思いついたあと、実際にお客さんを呼んでテストマーケティングをしている。彼らの友人でスタイル抜群なトリに頼んで、ビキニで洗車をしてもらったのだ。これでしっかりと感触を掴んでから、友人伝いでビキニガールを増やしていく。実に堅実だ。
そして、ビジネスが軌道に乗った後、彼は洗車だけでなくコーティングなどをサービスに追加してアップセルを狙っていく。経営学の単位は危ないのかもしれないが、実際のビジネスの運び方は成功の確率が高いタイプだろう。
と、真面目な分析はここまで。この映画はそんな真面目に語るような内容ではない。おっぱいに始まっておっぱいに終わるみたいな映画だ。実際、トリ役の女優はポルノスターでもある。名前を検索すればポルノ動画が引っかかるし、映画で見たナイスバディをさらに堪能できる。エロ目的でこの映画を見た人にとってはさらに嬉しいことだろう。
また、作品を作る際になんらかの配慮があったのかもしれないが、人種やコンプレックスにも配慮した配役となっていた。白人だけが出るとか、ナイスバディだけが出るといったことはない。さらに恋愛の嗜好も様々で、バイセクシャルだったり恋愛に対して奥手だったりと色々なバックグラウンドを持った人が登場する。パリピの創業物語というだけではないのが個人的には好感を持ったポイントだ。
まあ、映画のストーリーに期待するのはやめておいたほうがいい。前述したあらすじがほぼ全てだ。特にそれ以外の出来事は起こらない。基本的には美人のおっぱいを楽しむ映画であり、洋楽のエロいMV的な感じで視聴するのがおすすめだ。友達と見るのはOKだが、家族と見るのはやめておくべき。カップルで見るなら、それなりの準備をしてみるのがいいだろう。
日本でこのビキニ洗車をビジネスにするとしたら、どんな反応が来るのだろうか。おそらくアメリカでもフェミニストが激怒しているであろうこのサービスは、賛否両論あるはずだ。車離れが進む昨今だが、正直このサービスが登場すればそれなりに需要があると思う。仮に私が車を持っていれば、ビキニ洗車は毎月利用すると思う。笑
頭を空っぽにしてゆっくりと映画を見たい人にとっては、この「ビキニ・カー・ウォッシュ」はおすすめだ。ストーリーに気を取られることなく、エロさを楽しんでもらえればいい。普段はシリアスなテーマの映画をよく見るが、たまにはこんな作品もありだなと思った。
良かった点
とにかくおっぱいがたくさん映っているところ。アメリカらしいというか、このくらい自由な作品が作れると日本の映画も面白いよねという感じがする。何度も見るような映画ではないかもしれないが、純粋にエロコメディとして楽しめばいいと思う。エロい映画を見たいなら「ビキニ・カー・ウォッシュ」か、アン・ハサウェイの裸が見られる「ラブ&ドラッグ」をオススメしたい。
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残念だった点
残念というか、ストーリーはほとんど練られていないと思ったほうがいい。重厚なストーリーを楽しみたいなら別の映画を見るべきで、この映画で見るべきはとにかくおっぱいである。
終わりに
日々の生活で疲れたとか、なんだかやる気が起きないなというダルい気持ちを感じている時にはこの作品を見よう。少し楽になる。
ただバカなことをやってるなと笑えばいいし、この脚本を書けるって普段どんなことを考えている人なんだろうと余計なことを考えてもいい。頭を空っぽにして、少し人生の時間を無駄にしてみるといいだろう。
名経営者がいい人間とは限らない「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」レビュー
マクドナルドはこうして生まれた!『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』特別映像&予告編
作品・出演者情報
監督
キャスト
- レイ・クロック - マイケル・キートン
- リチャード・J・マクドナルド(ディック) - ニック・オファーマン
- モーリス・マクドナルド(マック)- ジョン・キャロル・リンチ
- ジョアン・スミス - リンダ・カーデリーニ
- ハリー・J・ソネンボーン - B・J・ノヴァク
- エセル・クロック - ローラ・ダーン
- フレッド・ターナー - ジャスティン・ランデル・ブルック
- ジューン・マルティーノ - ケイト・ニーランド
- ロリー・スミス - パトリック・ウィルソン
- ジム・ジエン - グリフ・ファースト
- ジェリー・カレン - ウィルバー・フィッツジェラルド
- ジャック・ホーフォード - デヴィッド・デ・ヴリーズ
個人的レビュー
ミルクシェイク用ミキサーのセールスマンだったレイ・クロックが、マクドナルド兄弟と出会い、彼らのハンバーガー店を世界最大のファーストフードチェーン店に成長させていく物語。
個人的には非常に面白い映画だったと思う。しかし、見る人によっては「なんだこのクズ人間は……!」と思うかもしれない。
世界の有名な経営者にはサイコパスが多いと言われているが、例に漏れずレイ・クロックもそんな人間だ。自分の利益の最大化のために、契約を破ったり献身的に支えてくれた妻と離婚したり。
欲望に忠実に生きる姿は、見る人によっては怒りを覚えるだろう。そして、もう二度とマクドナルドでハンバーガーを買うものか!と思うはずだ。
私は人間の汚い部分が非常に好きなので、こうした欲望にまみれた人間の物語はとても興味を持って見てしまう。ファイト・クラブも同じような匂いがして好きな作品だが、本作はさらにリアルな欲望が描かれていて痛快だ。
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レイ・クロックは非常な人間だと思われるかもしれないが、見方を変えれば成り上がることに異常なまでの執念を持って生きているとも言える。
作品中での描かれ方を見れば、セールスマンとして日の目を浴びず、多くの人に小馬鹿にされてきた人生だった。もちろん収入はそこそこで、中流階級の住居を手にしてはいたが、50歳をすぎてもなお満たされなかったのは彼のワークライフバランスが仕事に全振りしていたからであろう。
こんなに頑張っているのに、なぜうまくいかないのか。そんな気持ちを抱えながらずっと生きてきたのだ。
一人のビジネスマンとしてこの作品と向き合うと、レイ・クロックの姿勢は大変参考になる。
マクドナルドという田舎のハンバーガー店を偶然見つけ、そのシステムに感銘を受けた彼は、フランチャイズ化を狙って何度もアプローチをする。良いと感じたものに執念深く食らいつき、どうにかして口説き落とすそのスキルはなかなか貴重だ。
長く社会人生活を送っていても身につくとは限らない。まあ、それがサイコパスという言葉で片付けられたりするのだが。
レイ・クロックはマクドナルドを次々とフランチャイズ化していく中で、強力な味方をつけていく。若手の有能な社員を重宝し、不動産知識がある人間とタッグを組んでビジネスを確かなものにしていく。人たらしの一面を持ち合わせているが、それは自分の利益になるかどうかで冷静にジャッジしているのだ。
マクドナルド兄弟が自分の思い通りの許可を出さなくなれば、どうにかして排除する方法を考える。彼らがいなければ0→1は生まれなかったのに、終盤ではかなりぞんざいに扱っている。
しかし、個人的にはこの辺をうまく調整できる人間だったら今のマクドナルドの世界的な普及はないと思う。時に非情な選択をできるからこそ、ビジネスは大きくなっていくのだ。
ちなみに、ユニクロの柳井さんもレイのことを称賛しているので、ビジネス界の重鎮たちはみんな同じような考え方をしているのかもしれない。
個人的には、お金持ちになりたいという気持ちはあるが、人の心を忘れないようにしたいなとも思う。この辺のバランスが取れている経営者って世界にいるのかな?
興味があるので、少し調べてみようと思う。
作品を通して描かれているレイ・クロックのセンスについて、個人的に一番すごいと思ったのは「マクドナルド」の名前の響きを大切にしていたことだ。ブランドイメージを作り上げる上で、ネーミングのセンスは欠かせない。
ちなみに、日本にマクドナルドを持ち込んだ藤田田も「マクドナルド」の表記にはこだわりがあったそうだ。このセンスは商才の一つとして考えてもいいだろう。
ブランドイメージという点で言えば、その影響は就職活動などでも顕著に現れる。特にスタートアップやベンチャー企業の場合、無駄にかっこいい名前をつけたがる。中二病っぽいケースもあって、個人的にはそういった会社は名前だけで弾いていた。他の人に伝える時に恥ずかしい名前だと嫌なのだ。所属する企業名は、口に出してかっこいいものであってほしい。少なくともそういった気持ちを持っている人は多いはずだ。
どうやってそのセンスを磨いていけばいいのかは正直わからない。しかし、自分の気持ちに正直になれば、自ずと正解は見えてくるだろう。
賛否両論ありそうな作品であったが、ビジネスマンとしてこの作品に向き合うと色々な学びがあって楽しかった。
良かった点
配役が非常に良かった。
視覚的にわかりやすい配役で、主人公のレイ・クロックはどこか悪そうな印象を持つし、マクドナルド兄弟は兄が温厚で、弟が頭の切れる印象を見た目でつけている。
これもビジネスマンとしては勉強になるポイントで、悲しいかな人は見た目でだいたいの能力が判断できてしまうのだ。
そんなことない、と思うかもしれないが、有能なコンサルタントはデキるオーラがすごいし、クリエイティブな人間は外見にその個性が表現されている。
見た目を気にしないなんてのは全くの嘘であるというのを、この作品を通して学べるのではないだろうか。
残念だった点
もう少しだけ、レイ・クロックをいい人として描く方法があったのではないかと思う。
個人的には、序盤のセールスマンの失敗続きの描写が弱かったのかなと思う。あのシーンでもう少しダメージを受けていれば、見る側の同情を引き、手段を選ばず突き進む姿にも共感できたのに、と思ってしまった。
終わりに
賛否両論ある作品だと思うが、個人的には好きだ。
もしあなたがビジネスマンなら、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」も見てもらいたい。イカれた天才から学べることは多い。ぜひ。
仕事人間の挫折を描く「カンパニー・メン」レビュー
作品・出演者情報
監督
キャスト
- ボビー・ウォーカー - ベン・アフレック
- ジャック・ドラン - ケビン・コスナー
- フィル・ウッドワード - クリス・クーパー
- ジーン・マクラリー - トミー・リー・ジョーンズ
- マギー・ウォーカー - ローズマリー・デウィット
- サリー・ウィルコックス - マリア・ベロ
- ジェームズ・サリンジャー - クレイグ・T・ネルソン
- ダニー - イーモン・ウォーカー
個人的レビュー
根っからの仕事人間で、GTXのセールスマネージャーとしてエリート街道まっしぐらだったボビーは、不景気によりリストラを受ける。
最初は簡単に仕事が見つかると思っていたが、結局自分の望むキャリアを提示してくれる会社はどこにもなく、人生で初めての挫折を経験する。
12年という長い間貢献してきた会社から一瞬で捨てられる非情な現実。これは、中高年になると痛いほどわかるのかもしれない。
ボビーにとっての生きがいは仕事であり、広い家と高級車を所有して家族とも仲睦まじく暮らしているのが何よりの幸せだった。それをいきなり奪われるというのは、若い世代でもその喪失感は理解することができるのではないだろうか。
失恋した時、一緒に暮らしてきたペットが亡くなった時、急に決まった引越し。筆舌に尽くし難い虚無感が襲ってくる。そんな経験は誰しも一度はあるだろう。
そんな時に寄り添ってくれる人がいるかどうかは、立ち直りの速さに関わってくる。本作で言えば妻のマギーが一番近くで寄り添い、彼を献身的に支えていた。
生活のレベルを下げてしまうことを申し訳なく思うボビーに対し、その存在を否定せず、優しく諭す。それでいて現実を見るように導いていく。作品とはいえ、このバランス感覚はなかなか難しいものだ。それができずに離婚する夫婦は多い。夫を立てる、という表現とはまた違うが、違いが認め合い支え合って生きる夫婦像がよく表現されていたと思う。少しだけ、私も結婚に興味が湧いてきた。このまま独身だったら、何かあった時に支えてくれる人がいない。それって怖いなと。
さて、この映画でもう一つ描かれていたのはマギーの兄の優しさだ。ボビーが順風満帆だった時はろくに家族付き合いもせず、関係がいいとは言えなかった。それなのに、働き口に困っているボビーに対して仕事を用意すべく、休日返上で仕事をこなす。そんな無償の愛をボビーも感じ、大切なことは仕事だけではないということに気づくのだ。仕事で成功することだけが人生の評価軸ではない。たとえブルーカラーの仕事を安月給でしていたとしても、その仕事に誇りを持ち、周囲の人に幸せをもたらすべく働くことは最高の人生だ。ボビーとは対称の人生だが、それに触れたことでボビーは自分を見つめ直すことができた。
自分と違う人生を否定するような雰囲気が目立っていたボビーが変わっていく様子は、ぜひ作品を見て確認してほしい。
特に人生がうまくいっていないと感じている人は、この作品を見て自分を見つめ直してもいいと思う。
良かった点
マギーの兄の口数が少なかった点は非常にいい表現だった。よくイメージされる日本の職人像は「無口で近寄りづらい」という堅い人物だ。本作は特に日本版にローカライズされた訳でもなく、元々描かれているのが日本人のよく知る職人像だった。もしかしたら、職人像は世界共通なのかもしれない。
あとはGTXの会社の描かれ方も良かった。リストラ組から見た会社の方向性への不信感がよく表現されており、日産社員とかは共感することが多いのではないだろうか。
残念だった点
アメリカの文化というか生活スタイルへの理解がないと、余計なところに疑問を抱いてしまうかもしれない。
例えば家のローン。数ヶ月の失業でそんなに切羽詰るってどんだけギリギリでやりくりしてんだよ、という感覚が日本人である。しかし、貯金という概念があまり重要視されてないため、アメリカ人はローンで給料ギリギリまでなんでも買ってしまう傾向にあることを知っていれば納得の描写なのだ。
これから作品を見るという場合はその点少し注意してみたほうがいいと思う。
終わりに
正直、「カンパニー・メン」は若手社会人のほとんどがその絶望を理解することはできないだろう。12年という月日を捧げてきた会社にあっさりと捨てられるという経験は、中学から付き合っていた彼氏彼女に振られるのと同じくらいの感覚なのかもしれない。できれば経験したくはないが、コロナ禍の今ではないとは言い切れないだろう。
改めて仕事のあり方、向き合い方を考えたいという人には是非とも見てもらいたい作品だ。
きっかけはどこにあるかわからない「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」レビュー
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』予告編
作品・出演者情報
監督
キャスト
- アラン・チューリング - ベネディクト・カンバーバッチ
- ジョーン・クラーク - キーラ・ナイトレイ
- ヒュー・アレグザンダー - マシュー・グッド
- ロバート・ノック刑事 - ロリー・キニア
- ジョン・ケアンクロス - アレン・リーチ
- ピーター・ヒルトン - マシュー・ビアード
- アラステア・デニストン中佐 - チャールズ・ダンス
- スチュアート・ミンギス少将 - マーク・ストロング
個人的レビュー
第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇った最強の暗号「エニグマ」の解読を任命されたアラン・チューリングの物語。
史実を基にし、脚色された作品である。
この作品で語られている事実は、イギリス政府によって50年以上も隠されていた。
様々な理由はあるが、最も大きいのはエニグマの解読が「超極秘任務」だったことだ。ドイツ軍にエニグマの解読がバレないようにしなくてはいけなかった。大戦が終わっても、再び起こるかもしれない戦争に備えておかなくてはいけない。ドイツ軍がエニグマを解読されたことに気づかなければ、次の戦争も有利に進めることができるという算段だったのだろう。
つまり、この作品が世に公開されているということは、少なくともイギリスとドイツの間で今後戦争が起こる可能性は著しく低いということを示している。平和が訪れなければ見ることのできなかった作品と思うと、少し嬉しく思う。
さて、この映画では変わり者の天才数学者アラン・チューリングが主人公であるが、作品の中で多くのメッセージが込められていると感じた。
まず伝えられているのは、チームワークの大切さである。いかに優秀なアランであっても、エニグマに一人で立ち向かうのは無謀だった。よくある天才数学者の描かれ方は、人付き合いが苦手だったり、とても変なこだわりを持っていることが多い。本作のアランも例に漏れず、序盤は変人として描かれている。暗号を解読するために集められた天才たちと全くうまく付き合えない姿は、よく言えば何かを起こしそうな天才肌、悪く言えばチームのガンだ。
そんなアランが変わるのは、アランが実施したパズルによるメンバー選考で選ばれたジョーン・クラークの一言。天才的な頭脳を持ちつつも、男性中心の社会で生きてきた女性の処世術を持って他のメンバーと雰囲気よく接する彼女を見て、アランは考えを改める。エニグマの解読という目標に対して最適な解は、周囲との協力だったのだ。
周囲とうまく協力し合うことで解読作業は前に進んでいくが、膨大な組み合わせを試していくのは機械といえど時間がかかることだった。
そんな状況を打破するきっかけは、ふとした瞬間に訪れる。それは、アランが一人で考えていては一生辿り着けなかっただろうヒントであり、仲間と社交の場に出向かなければ得ることのできなかったヒントだった。壁にぶつかった時、気分転換をしたりいつもと違う場所に行ってみることは解決の糸口になりうる。視野を広げて様々な人と過ごすことの大切さを教えてくれる描写だったと思う。
ジョーンの言葉で非常に印象に残っているのは、「あなたが変わり者だから、世界はこんなに素晴らしい」という言葉。この言葉は現代においても十分に通用する。むしろ、多様性を認める社会へと変わってきたことで、多くの人が持っている感覚になってきているのではないだろうか。作中に出てくる指揮官の言葉にもあるが、戦争中は統率が重要視される。つまり、変わり者は矯正されるか見捨てられるかの二択で、世界を良くするとは考えられていなかったのだ。
現代社会ではいろいろな生き方が肯定されるようになってきた。いろいろな生き方の人間がいるから、世界は次々に面白いものが生まれる。
戦争をはじめとする世界的な問題が発生している時、技術力は大きく進歩する傾向にある。軍事産業が発展して生まれた高性能機器は世の中にたくさんあるし、より身近な例でいえば、昨今のコロナウイルスによって多くの企業が機能的なマスクの製造に取り組みはじめている。これまでは不織布を使用した使い捨てマスクが主流だったが、洗って使えるマスクが急ピッチで研究され、ウイルスの流行から3ヶ月程度で発売されている。人類の危機はこうして特定の産業に大きな進歩をもたらす可能性があるが、一方で多くの犠牲を孕む。
戦争や感染症の危険のない世界では、進歩はゆっくりかもしれないが、多くの分野で新しいものが次々と生まれる。何の役に立つのかわからないような発明が許容される社会は、それだけ平和なのだ。もし現代にアランが生きていれば、彼の人生は時代に翻弄されることはなかったのかもしれない。
この作品の主題はエニグマを解読した天才数学者の一生であり、同性愛者への差別や偏見でもある。作中では同性愛について理解のある人物が多く登場するが、実際は発覚すれば投獄される時代が本当にあった。現代を生きる私たちにはそこまで根強い偏見があるわけではないが、いまだに同性愛者への理解が追いついていない節もある。それは法的にもいえる話だ。
同性愛を理解し、様々な制度を整えることによって救われる人はまだたくさんいる。アランのような悲劇的な最期を迎えることはないにしても、彼らがより生きやすい世界を作っていく必要があるだろう。
様々なテーマが盛り込まれた作品で、鑑賞しながら考えることも多かった。世の中には知られていないが、実は偉大な功績を残した人物というのはたくさんいるはずだ。今後もこうした作品が生まれるといいな。
良かった点
ベネディクト・カンバーバッチの繊細な演技には注目してほしい。数学の天才、発達障害、同性愛者など表現の難しい役柄を見事に演じている。字幕で見ているからあまり台詞の言い回しを気にしてはいなかったので、英語圏の人が見ればまた違った印象になるのかもしれない。しかし、変わり者をうまく表現していると個人的には思った。
残念だった点
残念というか、ある程度の予備知識が必要な映画だなと思った。
時代背景や当時のイギリスの戦況について軽く知識があると描写が理解しやすいだろう。作品を見る前にアラン・チューリングを一通り調べてみるといい。
中田敦彦さんのYouTube大学でエニグマについて解説している動画があるので、ぜひこちらを参考にしてもらいたい。
終わりに
この映画は間違いなくオススメの映画だ。
個人的には邦題をもう少し工夫できなかったのかという思いがある。イミテーション・ゲームだけでよかったような気もするかな。副題が作品を少し堅苦しく、手の出しにくいものにしてしまっているなと感じた。
ガン患者との向きあい方を考えさせられる「50/50 フィフティ・フィフティ」 レビュー
作品・出演者情報
監督
キャスト
- アダム - ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
- カイル - セス・ローゲン
- キャサリン - アナ・ケンドリック
- レイチェル - ブライス・ダラス・ハワード
- ダイアン - アンジェリカ・ヒューストン
- リチャード - サージ・ホード
- ロス医師 - アンドリュー・エアリー
- ミッチ - マット・フリューワー
- アラン - フィリップ・ベイカー・ホール
個人的レビュー
親しい人が病気になった時、どう行動するべきかを教えてくれる名作だった。
作品のあらすじは、腰の痛みを感じたアダムが病院に行くと、難しいガンであることを宣告され、それからの周囲の変化や自分の感情の変化を繊細に描いた物語である。
私はガンになったことはないが、実は国が指定している難病を患っている。そのため、アダムの心情とリンクするところが多かった。
重い病気になって最も感じることは、周囲の扱いの変化だ。頼んでもいないのに優しくなって、過剰に寄り添おうとしてくる。もちろん、それが仕方のないことなのは分かってはいるのだ。いくら自分が「大丈夫」と言っても、ただ強がっているように見えたり、相手に対して気を遣っているように見えてしまうから。私も何度も経験してきた。
アダムからすれば、その気遣いは鬱陶しいものにしか思えなかったはずだ。これまで表面的にしか接してこなかったから、何かあると白々しく優しさを見せてくる。ガンをトリガーにして、上辺だけの人間関係が崩れ去っていく瞬間でもある。
病気になった人に優しくしようと思うのは当然のことだ。今までできていたことが出来なくなって、生活だって一変する。だが、「優しさ」と「配慮」は違う。極めて難しい話ではあるが、カイルはその点が非常に上手かったように思う。
なるべく今まで通りに接しようと彼なりに努力をしていたし、ガンになった今を楽しんで生きてほしいと思って色々なところを連れ回す。アダムは体力的には難しかったものの、カイルと今までどおりに楽しく過ごしていた。
急に白々しくなる周囲の人々を冷めた目で見ていたアダムの前に、カウンセラーのキャサリンが現れる。彼女は新米カウンセラーで、患者への配慮がまだうまく出来なかった。良くも悪くも教科書どおりにしかケアすることが出来ず、アダムが本当に欲しているケアには程遠かった。そんなキャサリンのこともアダムは冷めた目で見ていた。どうせ仕事だからやっている。自分の気持ちなって分かりっこない。そんな態度だ。
ただ、キャサリンは常にアダムに寄り添おうとした。不器用だけど、その優しさは滲み出ている。誰よりもアダムに明るく暮らしてもらいたいと思い、自分のできることを精一杯頑張る。
この作品は、病気になった時に患者が感じる周囲の過剰な配慮をよく描いている。しかし、本当のテーマは違う。「病気になった自分の思い込み」が、この映画のメッセージなのだ。
ガンになったから、周囲の人はみんな取り繕ったように優しくしてくれる。今までと違う。お前ら、ほんと薄っぺらい奴らだ。
アダムは終始そんなことを思っていた。俺が思っていることをちゃんと理解してくれる人なんていないんだろう。自分のことは自分で守らないと。そう考えていた。
母親は過剰なまでに心配して連絡してくる。お節介にも程があるだろと、アダムは不快にすら思っていた。
カイルも自分をダシに使って女とヤることばかり考えている。なんて自己中心的な奴なんだ。
みんな、結局はガンになった自分に寄り添ってくれてないんだろう。この辛さがわからないんだろう。
周りを冷めた目で見ていたアダムは、闘病生活を続けるうちに周囲が見えなくなっていったのだ。
病状が悪化するにつれ、自暴自棄になっていくアダム。そんな彼を周りで支える人々。
母も、カイルも、キャサリンも、アダムとどう向き合ったらいいのかを必死に考えていた。だが、アダムが勝手に心を閉ざしていたのだ。
それでも、彼らは諦めずにアダムと向き合う。それが本当の優しさであり、愛だった。
母の話を聞いて、カイルの読んでいた本を知って、キャサリンの変わらぬ優しさを感じて、アダムは我に帰る。
病気を言い訳にして心を閉ざしていたのは自分の方だったのだと気づくのだ。
予想だにしないアクシデントは、人を正直な生き物にする。
アダムはガンというアクシデントによって、自分のことを本当に大切に思ってくれている人々に出会うことが出来たのだ。
本当の愛や優しさは、近すぎるとぼやけて見えにくくなる。
この作品を通して、皆さんにも自分の家族や友人の優しさを再確認してもらえたらと思う。
乃木坂46の楽曲に、「しあわせの保護色」という曲がある。
その歌詞を最後に添えておく。
しあわせは いつだって 近くにあるもの
保護色のようなもの 気づいていないだけ
良かった点
アダムの心理描写が秀逸だった。
多くを語らないからこそ、伝わるものがある。
伝えたいことを押し出しすぎず、見る人に委ねる描写が多かったのはオシャレな映画だと思う。
あとは、ミッチの死が唐突なものだったことも良かった。
ミッチーを通して、アダムが人生における幸せを認識し、希望を持った直後に死と向き合う。
上げて落とすという描写なので、より感情移入がしやすかった。アダムの精神状態が悪くなっていく転換点として非常にうまく作用しているし、闘病生活の感情の起伏が表現されていて良かった。
残念だった点
作品の長さによっても変わっていくものだから仕方ないが、序盤の同僚たちとのパーティーの描写が薄っぺらく感じた。
もう少し職場でのアダムが描かれていれば、「表面的な優しさ」により焦点が当たってメッセージ性があったのかなと思う。
見る側の想像力次第でカバーできる部分なので、そこまで問題ではないけど。
終わりに
日本人は2人に1人がガンになるとも言われている。
つまり、自分がアダムと同じ立場になる可能性もあるし、カイルの立場になる可能性もある。
この作品を通して、愛や優しさを感じてもらいたい。