伊達男の映画批評

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【グリーンブック 感想】あなたの言葉の意図は伝わっていますか?

作品・出演者情報

監督

ピーター・ファレリー

キャスト

  • トニー・“リップ”・ヴァレロンガ - ヴィゴ・モーテンセン
  • ドクター・ドナルド・シャーリー - マハーシャラ・アリ
  • ドロレス・ヴァレロンガ - リンダ・カーデリーニ
  • オレグ - ディメター・マリノフ
  • ジョージ - マイク・ハットン
  • ルディ - フランク・ヴァレロンガ
  • キンデル - ブライアン・ステパニック
  • ロスクード - ジョー・コーテス
  • アミット - イクバル・セバ
  • ジョニー・ヴェネス - セバスティアン・マニスカルコ
  • チャーリー - ピーター・ガブ
  • モーガン - トム・ヴァーチュー
  • ボビー・ライデル - ファン・ルイス
  • プロデューサー - P・J・バーン
  • アンソニー - ルイ・ベネレ
  • ニコラ - ロドルフォ・ヴァレロンガ
  • フラン - ジェナ・ローレンゾ
  • ルイ - ドン・ディペッタ
  • リン - スハイラ・エル=アーター
  • フランキー - ギャビン・ライル・フォーリー
  • カーマイン - ポール・スローン
  • マイキー - クイン・ダフィ
  • ポーリー - ジョニー・ウィリアムズ
  • ゴーマン - ランダル・ゴンザレス

個人的レビュー

人種差別という大きなテーマを扱った作品だが、重すぎず、ハートフルな内容に仕上がっていた。

この映画では、「コミュニケーション」のすれ違いが様々な場面で出てくる。

イタリア系アメリカ人のトニーは、粗暴で荒くれ者。日本で言えば、江戸っ子の中でも血気盛んでトラブルを起こしがちな人間だ。一方で音楽家のドクターは物静かな優等生タイプ。

この時点で様々なすれ違い、文化的衝突があると予想できるだろう。しかし、この作品で扱われているすれ違いは少々異なる。

トニーは白人で、周囲と同じように黒人を蔑んでいた一人だ。だが、それは黒人が本当に嫌いというわけではない。知らないだけだった。

ドクターにフライドチキンを勧める時、彼は「黒人のソウルフードだろ?」と声をかける。差別に敏感なドクターはそれを「美味いから食え」というメッセージとしては捉えていない。しかし、トニーは純粋にケンタッキー・フライド・チキンの美味さをドクターに伝えたいだけだった。そこに差別的な意味合いなんてない。

トニーは後先を考えず、我慢できないのが欠点でもある。カッとなって手を出してしまいがち。また、自分の要求は臆さず伝えるようにしている。だが、それはドクターにとって足りない部分でもあった。黒人だから、差別されてしまうから、分かってもらえないからと、どこかあきらめてしまっている。

そんなドクターにトニーは言う。

「寂しいときは自分から手を打たなきゃ。」

分かってくれるかどうかは、言ってみないと分からない。ドクターは、トニーの行動や言動からそれを感じとっていき、最後の演奏会のシーンで取った行動に繋がっていく。

コミュニケーションは非常に難しいものだ。現代ではLINEでコミュニケーションを取る機会も増えたが、意図せず相手を傷つけてしまったり、相手の真意が分からずに困惑することはある。この作中では、トニーが家族に対して送る手紙がその象徴となっている。トニーの手紙は妻に届くが、トニーの意図したことが伝わっているかどうかは、分からない。この距離感のあるコミュニケーションが、トニーとドクターのコミュニケーション、そして白人と黒人のコミュニケーションを示しているのだろう。

トニーとドクターは道中で何度もコミュニケーションがすれ違う。二人に悪気はないが、過去の経験や環境がそうさせている。

アメリカの人種差別は徐々に薄くなってきていると感じるが、それはこのグリーンブックのようなエピソードがいくつも重なり合って生まれているのだと感じた。

良かった点

ドクターの描かれ方が秀逸だった。白人から差別され、黒人からも浮いている。そんな彼が、演奏会を中止して向かった店で黒人を相手に演奏し、言葉ではないコミュニケーションによって受け入れられたシーンは非常に印象的だった。そして、実は言語的コミュニケーションによらず、音楽に合わせて踊り、飲み、笑うことが、結局は人をポジティブにつないでいくのだろうとも感じた。

残念だった点

時代背景を知らずに見たら、テーマに気づかずに抑揚のない作品だと思われてしまうかもしれない。最低限の教養が必要になる映画だと思う。

終わりに

差別は少なからずどこの国にもあるが、それを乗り越えていくためにはトニーのようにまっすぐで人情味あふれる人間と、ドクターのように差別に屈せず世界を切り拓く気持ちが大切なのだろう。

何度でも見返したい、いい作品だった。