ガン患者との向きあい方を考えさせられる「50/50 フィフティ・フィフティ」 レビュー
作品・出演者情報
監督
キャスト
- アダム - ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
- カイル - セス・ローゲン
- キャサリン - アナ・ケンドリック
- レイチェル - ブライス・ダラス・ハワード
- ダイアン - アンジェリカ・ヒューストン
- リチャード - サージ・ホード
- ロス医師 - アンドリュー・エアリー
- ミッチ - マット・フリューワー
- アラン - フィリップ・ベイカー・ホール
個人的レビュー
親しい人が病気になった時、どう行動するべきかを教えてくれる名作だった。
作品のあらすじは、腰の痛みを感じたアダムが病院に行くと、難しいガンであることを宣告され、それからの周囲の変化や自分の感情の変化を繊細に描いた物語である。
私はガンになったことはないが、実は国が指定している難病を患っている。そのため、アダムの心情とリンクするところが多かった。
重い病気になって最も感じることは、周囲の扱いの変化だ。頼んでもいないのに優しくなって、過剰に寄り添おうとしてくる。もちろん、それが仕方のないことなのは分かってはいるのだ。いくら自分が「大丈夫」と言っても、ただ強がっているように見えたり、相手に対して気を遣っているように見えてしまうから。私も何度も経験してきた。
アダムからすれば、その気遣いは鬱陶しいものにしか思えなかったはずだ。これまで表面的にしか接してこなかったから、何かあると白々しく優しさを見せてくる。ガンをトリガーにして、上辺だけの人間関係が崩れ去っていく瞬間でもある。
病気になった人に優しくしようと思うのは当然のことだ。今までできていたことが出来なくなって、生活だって一変する。だが、「優しさ」と「配慮」は違う。極めて難しい話ではあるが、カイルはその点が非常に上手かったように思う。
なるべく今まで通りに接しようと彼なりに努力をしていたし、ガンになった今を楽しんで生きてほしいと思って色々なところを連れ回す。アダムは体力的には難しかったものの、カイルと今までどおりに楽しく過ごしていた。
急に白々しくなる周囲の人々を冷めた目で見ていたアダムの前に、カウンセラーのキャサリンが現れる。彼女は新米カウンセラーで、患者への配慮がまだうまく出来なかった。良くも悪くも教科書どおりにしかケアすることが出来ず、アダムが本当に欲しているケアには程遠かった。そんなキャサリンのこともアダムは冷めた目で見ていた。どうせ仕事だからやっている。自分の気持ちなって分かりっこない。そんな態度だ。
ただ、キャサリンは常にアダムに寄り添おうとした。不器用だけど、その優しさは滲み出ている。誰よりもアダムに明るく暮らしてもらいたいと思い、自分のできることを精一杯頑張る。
この作品は、病気になった時に患者が感じる周囲の過剰な配慮をよく描いている。しかし、本当のテーマは違う。「病気になった自分の思い込み」が、この映画のメッセージなのだ。
ガンになったから、周囲の人はみんな取り繕ったように優しくしてくれる。今までと違う。お前ら、ほんと薄っぺらい奴らだ。
アダムは終始そんなことを思っていた。俺が思っていることをちゃんと理解してくれる人なんていないんだろう。自分のことは自分で守らないと。そう考えていた。
母親は過剰なまでに心配して連絡してくる。お節介にも程があるだろと、アダムは不快にすら思っていた。
カイルも自分をダシに使って女とヤることばかり考えている。なんて自己中心的な奴なんだ。
みんな、結局はガンになった自分に寄り添ってくれてないんだろう。この辛さがわからないんだろう。
周りを冷めた目で見ていたアダムは、闘病生活を続けるうちに周囲が見えなくなっていったのだ。
病状が悪化するにつれ、自暴自棄になっていくアダム。そんな彼を周りで支える人々。
母も、カイルも、キャサリンも、アダムとどう向き合ったらいいのかを必死に考えていた。だが、アダムが勝手に心を閉ざしていたのだ。
それでも、彼らは諦めずにアダムと向き合う。それが本当の優しさであり、愛だった。
母の話を聞いて、カイルの読んでいた本を知って、キャサリンの変わらぬ優しさを感じて、アダムは我に帰る。
病気を言い訳にして心を閉ざしていたのは自分の方だったのだと気づくのだ。
予想だにしないアクシデントは、人を正直な生き物にする。
アダムはガンというアクシデントによって、自分のことを本当に大切に思ってくれている人々に出会うことが出来たのだ。
本当の愛や優しさは、近すぎるとぼやけて見えにくくなる。
この作品を通して、皆さんにも自分の家族や友人の優しさを再確認してもらえたらと思う。
乃木坂46の楽曲に、「しあわせの保護色」という曲がある。
その歌詞を最後に添えておく。
しあわせは いつだって 近くにあるもの
保護色のようなもの 気づいていないだけ
良かった点
アダムの心理描写が秀逸だった。
多くを語らないからこそ、伝わるものがある。
伝えたいことを押し出しすぎず、見る人に委ねる描写が多かったのはオシャレな映画だと思う。
あとは、ミッチの死が唐突なものだったことも良かった。
ミッチーを通して、アダムが人生における幸せを認識し、希望を持った直後に死と向き合う。
上げて落とすという描写なので、より感情移入がしやすかった。アダムの精神状態が悪くなっていく転換点として非常にうまく作用しているし、闘病生活の感情の起伏が表現されていて良かった。
残念だった点
作品の長さによっても変わっていくものだから仕方ないが、序盤の同僚たちとのパーティーの描写が薄っぺらく感じた。
もう少し職場でのアダムが描かれていれば、「表面的な優しさ」により焦点が当たってメッセージ性があったのかなと思う。
見る側の想像力次第でカバーできる部分なので、そこまで問題ではないけど。
終わりに
日本人は2人に1人がガンになるとも言われている。
つまり、自分がアダムと同じ立場になる可能性もあるし、カイルの立場になる可能性もある。
この作品を通して、愛や優しさを感じてもらいたい。