伊達男の映画批評

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仕事人間の挫折を描く「カンパニー・メン」レビュー


『カンパニー・メン』予告編

作品・出演者情報

監督

ジョン・ウェルズ

キャスト

個人的レビュー

根っからの仕事人間で、GTXのセールスマネージャーとしてエリート街道まっしぐらだったボビーは、不景気によりリストラを受ける。

最初は簡単に仕事が見つかると思っていたが、結局自分の望むキャリアを提示してくれる会社はどこにもなく、人生で初めての挫折を経験する。

12年という長い間貢献してきた会社から一瞬で捨てられる非情な現実。これは、中高年になると痛いほどわかるのかもしれない。

ボビーにとっての生きがいは仕事であり、広い家と高級車を所有して家族とも仲睦まじく暮らしているのが何よりの幸せだった。それをいきなり奪われるというのは、若い世代でもその喪失感は理解することができるのではないだろうか。

失恋した時、一緒に暮らしてきたペットが亡くなった時、急に決まった引越し。筆舌に尽くし難い虚無感が襲ってくる。そんな経験は誰しも一度はあるだろう。

そんな時に寄り添ってくれる人がいるかどうかは、立ち直りの速さに関わってくる。本作で言えば妻のマギーが一番近くで寄り添い、彼を献身的に支えていた。

生活のレベルを下げてしまうことを申し訳なく思うボビーに対し、その存在を否定せず、優しく諭す。それでいて現実を見るように導いていく。作品とはいえ、このバランス感覚はなかなか難しいものだ。それができずに離婚する夫婦は多い。夫を立てる、という表現とはまた違うが、違いが認め合い支え合って生きる夫婦像がよく表現されていたと思う。少しだけ、私も結婚に興味が湧いてきた。このまま独身だったら、何かあった時に支えてくれる人がいない。それって怖いなと。

さて、この映画でもう一つ描かれていたのはマギーの兄の優しさだ。ボビーが順風満帆だった時はろくに家族付き合いもせず、関係がいいとは言えなかった。それなのに、働き口に困っているボビーに対して仕事を用意すべく、休日返上で仕事をこなす。そんな無償の愛をボビーも感じ、大切なことは仕事だけではないということに気づくのだ。仕事で成功することだけが人生の評価軸ではない。たとえブルーカラーの仕事を安月給でしていたとしても、その仕事に誇りを持ち、周囲の人に幸せをもたらすべく働くことは最高の人生だ。ボビーとは対称の人生だが、それに触れたことでボビーは自分を見つめ直すことができた。

自分と違う人生を否定するような雰囲気が目立っていたボビーが変わっていく様子は、ぜひ作品を見て確認してほしい。

特に人生がうまくいっていないと感じている人は、この作品を見て自分を見つめ直してもいいと思う。

良かった点

マギーの兄の口数が少なかった点は非常にいい表現だった。よくイメージされる日本の職人像は「無口で近寄りづらい」という堅い人物だ。本作は特に日本版にローカライズされた訳でもなく、元々描かれているのが日本人のよく知る職人像だった。もしかしたら、職人像は世界共通なのかもしれない。

あとはGTXの会社の描かれ方も良かった。リストラ組から見た会社の方向性への不信感がよく表現されており、日産社員とかは共感することが多いのではないだろうか。

残念だった点

アメリカの文化というか生活スタイルへの理解がないと、余計なところに疑問を抱いてしまうかもしれない。

例えば家のローン。数ヶ月の失業でそんなに切羽詰るってどんだけギリギリでやりくりしてんだよ、という感覚が日本人である。しかし、貯金という概念があまり重要視されてないため、アメリカ人はローンで給料ギリギリまでなんでも買ってしまう傾向にあることを知っていれば納得の描写なのだ。

これから作品を見るという場合はその点少し注意してみたほうがいいと思う。

終わりに

正直、「カンパニー・メン」は若手社会人のほとんどがその絶望を理解することはできないだろう。12年という月日を捧げてきた会社にあっさりと捨てられるという経験は、中学から付き合っていた彼氏彼女に振られるのと同じくらいの感覚なのかもしれない。できれば経験したくはないが、コロナ禍の今ではないとは言い切れないだろう。

改めて仕事のあり方、向き合い方を考えたいという人には是非とも見てもらいたい作品だ。