伊達男の映画批評

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製薬会社の闇を暴く勇敢な行動「ナイロビの蜂」レビュー


The Constant Gardener (2005) Official Trailer - Ralph Fiennes, Rachel Weisz Movie HD

作品・出演者情報

監督

フェルナンド・メイレレス

キャスト

個人的レビュー

大手製薬会社が莫大な利益を狙い、アフリカで人命を軽視した臨床実験を行なっていることに気づいた一人の女性ジャーナリストが闇に葬られ、その夫が妻の無念を晴らすために命を狙われながらも真実を究明していくストーリー。

感染症は歴史が長い。最近はコロナウイルスが猛威を振るっているが、数百年前にはペストによって大量の人が犠牲になっている。急激に増加する感染者に怯える人が多いということは、それだけその解決法を提示できる企業には利益がもたらされる。製薬会社は人命の救助を第一に掲げつつも、実際はその奥に眠る莫大な利益を狙っていることがあるのだ。

もちろん、それが悪いことというわけではない。多くの人を救う薬を開発したのならば、それに相応しいリターンがあっていいと思う。それがビジネスだ。

しかし、今回題材になっていた企業は自分たちにとって不都合な真実を隠蔽していた。自分たちの利益のためにたくさんの命を犠牲にし、その判断を下した当人たちは昼間からゴルフ。同じ人間だが、その命の価値は差があると言わんばかりの描写だ。

テッサのような勇敢な女性は、煙たがられることが多い。特に大きな組織に対して歯向かう時、様々な危険が生じる。権力に対抗するジャーナリストが殺されるというのは映画ではよくありがちだが、今作でもそれは同じ展開だった。ただし、他の作品と違う点はその意思を受け継いだ夫が主人公であるという点。さらに言えば、この作品は「主人公」という概念ではなく、「権力に対抗するもの」という概念がメインなのかもしれない。テッサ→ジャスティンに主人公のバトンが渡っているように感じた。

本作で最も印象的なシーンとして、村を襲撃されて飛行機で逃げる時、ジャスティンが幼い子供を同乗させようとするシーンがある。目の前の命を助けたいと思い、必死に訴えるジャスティン。その姿は、生前のテッサに重なる。

この作品が描いているのは、テッサの正義感とジャスティンの贖罪だ。

テッサは正義に反することがあれば、すぐに行動を起こし、不正を暴こうとする人物だった。一方で、ジャスティンのことを深く愛していたことも事実だった。

製薬会社の不正がイギリス高官たちを巻き込む大きな闇であることを知ったテッサは、外交官であるジャスティンを守るために不正について何も知らせることはなかった。彼が真実を知ってしまえば、命を狙われる危険もあったから。

そんなこととは知らず、ジャスティンは外交官としてテッサの行動を嗜めることがあった。

彼は当初、目の前の命を救いたいと行動するテッサとは対照的な存在だった。外交官として国を背負っているということもあり、目の前の人命よりも公平な支援を優先していた。だが、テッサが守りたかったのは自分であることを知り、なぜもっと寄り添ってやれなかったのかを後悔する。ジャスティンは自らが現実を直視しなかったことにも責任を感じ、テッサの残した仕事を行なっていく。

正義感と真実の愛が並行して語られる良作だったと思う。

個人的には、作品のタイトルのつけ方が面白いと思った。原題の”The constant gardener”はジャスティンを指し、邦題の「ナイロビの蜂」はテッサを指している。

どのようにタイトルが決まるのかは知らないが、邦題がテッサに向いているということは女性の社会進出や地位向上に対してのメッセージがあるのかなと思った。深く考えすぎかもしれないけど。

私が見た感じでは、テッサの強い女性像が印象的だったので、邦題の「蜂」が敵を鋭く狙う様子が想起されていいタイトルだなと思った。

良かった点

「誰かに狙われている」ことを示すカメラワークが良かった。

ジャスティンが周囲を警戒している様子を、敢えてカメラワークを雑にすることによって緊張感やリアリティを演出していたのが素晴らしい。

見る側も感情を共有しやすい仕掛けだったと思う。

残念だった点

ちょっと話が複雑でゴチャッとしてしまう部分があったように思う。

特に、登場人物の関係性がわかりにくくなってしまった。キャストの外見が似ていることもあって、混乱する人もいるかもしれない。

終わりに

こういった社会派の映画では、そのジャーナリズム精神や事件の大きさについてフォーカスされることが多いが、今作は夫婦の愛の形もテーマになっている。

今もなおこうした不正が起こっている可能性も否めない。遠いアフリカの話だとは思わず、問題意識を持つきっかけになる作品だ。