伊達男の映画批評

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男女、年の差、そして友情「マイ・インターン」レビュー


映画『マイ・インターン』予告編(120秒)【HD】2015年10月10日公開

作品・出演者情報

監督

ナンシー・マイヤーズ

キャスト

個人的レビュー

年齢も性別も立場も超えた、友情の物語。

アン・ハサウェイ演じる超仕事人間の女社長ジュールズの元に、会社の社会貢献プログラムの一環でシニアインターンがやってくる。そのシニアインターンロバート・デ・ニーロ演じるベン。超多忙なジュールズは、最初は高齢者のインターンを自分が管理することに消極的だったが、勉強熱心で進んで困っている人を助け、周囲からの評判もいいベンの人柄と人生観に触れるうちに心を開いていく。

マイ・インターンはずっと気になっていた作品だ。アン・ハサウェイロバート・デ・ニーロが出ているのだから、さぞかし面白いのだろうとは思っていた。

作品のあらすじすら知らなかったころの私の予想では、インターンに来たベンが長年のキャリアを生かして色々なお悩みを解決していき、最終的にいい役職につくのかな?と思っていた。

だが序盤ではベンはろくに仕事も与えられず、ジュールズからは少し厄介者のように扱われていたのは驚いた。高齢だし、機械に疎いがゆえの苦労は描かれるだろうなと思っていたが、まさか仕事を振られないとは。笑

だが、その状況と対比するように同僚からの信頼を得ていく姿が描かれており、「時間をかけてジュールズを攻略していく」というストーリーの軸がわかる。

こうした攻略系のシナリオは、主に恋愛作品で使われることが多い。憧れの人にどうにか近づき、色々な苦労がありながらも距離を縮め、ゴールイン。王道のパターンだ。

しかし、今回は恋愛ではない。若手のやり手女社長と、引退してやりがいを求めるシニアインターン。聞いたことのない組み合わせだ。この構造を思いついた作者もすごい。おそらく、色々な恋愛作品を撮ってきたが、そのパターンを恋愛以外に当てはめたらどんなストーリーが描けるのか挑戦したのが本作なのだろう。

本作で特筆すべきはジュールズの描かれ方だ。作品ではベンが一人称として描かれているが、個人的にはジュールズに監督のこだわりを感じた。

ジュールズは自分で立ち上げた会社を全身全霊で引っ張っていくカリスマ社長。多忙なスケジュールで社員とのコミュニケーションがうまく取れず、色々なことを忘れてしまっている。気も強いし、時には社員に無理なお願いもする。

こうした社長像を描く時、王道を行くのは社員を使い捨てのコマのように扱う社長だ。「変わりはいくらでもいる」「やる気がないなら辞めろ」みたいな暴言をいとも簡単に言ってしまうような、売り上げ重視のロボットみたいな人物像になりがちなのだ。

しかし、本作ではそんな描かれ方はしていない。どんなに忙しくても、社員とのコミュニケーションを取ろうとする姿勢がある。さらにいえば、お客さんの声を聞くためにカスタマーサポートも請け負っていたりする。お客さんの視点でサービスを見るためにわざわざ自社製品を購入して包装をチェックしたり、そのあと工場に出向いて包装のやり方を実際に見せて教える。どんなに忙しくても、サービスに妥協せず、お客さんの視点でサービスを考える。

本作品は、社長のあるべき姿も描いているのだ。その証拠に、誰もジュールズを嫌っていない。よく思ってないのはママ友だけ。

女性の社会進出が叫ばれて久しいが、本作で描かれているジュールズはママ友に嫌われている。この描写、女性の社会進出を阻んでいるのは女性なのでは、というアイロニーも感じるところだ。本作の監督が女性であることや、主役のアン・ハサウェイが役の外でも意志の強いはっきりとした女性であるというバックグラウンドもあり、余計にメッセージ性が強くなっている。まあ、気にしなくてもいいところなんだけど、意外と大事なメッセージな気がした。

先にジュールズについて書いたが、もちろんベンからも学ぶことは多い。

ベンがすごいのは、社内の誰よりも年上で経験豊富なのに、非常に謙虚なところだ。最初はパソコンの起動さえ困っていたが、1つ1つ仕事を丁寧に覚えていく。ジェールズに厄介者扱いされて仕事をもらえない時でも、自分からやるべきことを見つけ、進めていく。誰もが面倒だと思っていることを、朝早く来て片付ける。こうした姿勢が信頼を生むのは、現実の世界でも同じだろう。

ベンの姿勢から、ジュールズも色々なことに気づく。周囲の人への感謝の気持ちを忘れず、その気持ちを伝えることの大切さに気づかされるのだ。さりげなくそのアプローチができるベンは、ジュールズをうまく補完し、社内のコミュニケーションを円滑にしている。

いいか、就活生諸君。君たちがよくESや面接で使う「潤滑油」ってこういう働きのことだぞ。飲み会を開いて親睦を深めましたみたいなレベルで使うんじゃねえ。

それぞれの世代が持つ「役割」が、この映画では暗示されている。説教を垂れることが年寄の役目じゃない。価値観が違うからと諦めてはいけない。ひたすらに歩み寄って、社会を形成していくのだ。

方丈記の一節に、こんな文章がある。

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

「流れ過ぎていく河の流れは途絶えることがなく、それでいてもとの水ではない。よどみに浮かんでいる水の泡は、一方では消え、一方では生まれたりして、長い間とどまっている例はない。この世に生きている人と住む場所とは、またこのようである」という意味だ。

価値観や働き方は、時代によって変わっていくものだ。ベンが現役のころ勤めていた電話帳の工場は、新興アパレル企業に生まれ変わった。そこで働く人も違う。その変化を受け入れ、適応しようとするベンの生き方こそ、これからの「人生100年時代」の生き方なのかもしれない。そして、古き良き風習や文化を素直に取り入れて大切にしていくことも、若者に必要なマインドなのだろう。

私も歳を取った時、ベンのように謙虚に学び、感謝を忘れない人間でいたいものだ。

良かった点

本作の良かった点は、前述したがジュールズが「よき社長」として描かれているところだ。アン・ハサウェイの演技力の高さもあるのだろうけど、嫌な社長としては一切描かれていない。ベンだけでなく、ジュールズも視聴者の応援の対象になっているところが非常に良い描き方だと思った。

残念だった点

ジュールズの母の家に忍び込んでデータを消す茶番は、賛否が分かれるところだろう。

個人的には、作品のちょっとしたスパイスになっていたし、その後のバーのシーンも重要だった(ジュールズの本音が出ていた)ので必要だったと思う。なくても描けただろうとは思うけど。

また、そのシーンでの住居侵入と、ベンが異動させられた時にジュールズが無免許で運転したという不法行為がいくつかあったのが気になったくらい。そんなのどうだっていいんだけどね。ほんとに。

あと、ジュールズが社内の移動に自転車使ってるって冒頭で言ってたのに、それ以降一度も乗ってなかった。最初の設定を貫いていたら、シュールさも加わって笑いのポイントが増えたかも、と思う。もちろん、なくても全然いいけど。笑

あとは、現代社会をもう少し子細に描くならば、女性の上司と男性の部下という点をもう少し突いても良かったのではないかと思う。主題とはずれている部分なので作品に落とし込まなかったのかもしれないが、見る人によっては違和感があったかもしれない。

終わりに

社会人であれば、誰が見ても何か感じるものがあるはずだ。特に、50代を過ぎている人には是非おすすめしたい。時代にチャンネルを合わせて、新しいことにチャレンジしていく姿がいかに美しいかを教えてくれる。部下との向き合い方も変わってくるのではないだろうか。

私は、明日からハンカチを持って仕事に向かう。いつの時代も紳士であるために。