伊達男の映画批評

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2つの人生を歩むことができたら…「天使のくれた時間」レビュー

作品・出演者情報

監督

ブレット・ラトナー

キャスト

個人的レビュー

もしあの時恋人と一緒にいることを選んだらどんな人生を歩んでいたのか、その世界線を体験する物語。

人生には出会いと別れがある。それは、時に人生のターニングポイントとなる。

成功を夢見て恋人のケイトと離れ、単身ロンドンへと渡ったジャック。空港でケイトに泣きながら引き止められたが、それを振り切って別々の道を歩む決断をする。

その別れから13年。ジャックは大手金融会社の社長としてプレッシャーの中で結果を残し、優雅な独身生活を送っていた。クリスマスの夜にケイトから電話があったがかけ直すことはせず、そのまま眠りについた。翌朝目覚めると、13年前にロンドンに渡らず、ケイトと一緒に暮らした場合の”if”の世界線にジャックは迷い込む。

誰しもが考えたことのある、「あの時こうしていたら」というストーリー。今作の対立軸は「出世」と「家庭」だ。どちらの方がいいという押し付けがましい作品ではないが、ジャックが元々の世界で成功者だったため、家庭人の暮らしに混乱してなんとか抜け出そうとする。

資本主義第一のジャックからすれば、中流階級の暮らしで満足することはできなかったのかもしれない。いわゆる独身貴族として満足のいく暮らしをしていたところから、一気に質素な暮らしに変わるというのは相当ないダメージだ。

よく、生活レベルをあげるのは簡単だが、下げるのは容易ではないと言われる。一度得たものを捨て去るという決断は誰にとっても耐えがたいものだ。

私も意図的に生活レベルを下げた経験があるが、やっぱり前の方が良かったなと思う事は多かった。まあ、私の場合は勝手に生活レベルを下げた以外生活は何も変わっていないので、昔の恋人と家庭を持つというプラス要素があるジャックよりも悲惨な経験だったかもしれない。笑

それにしても、フェラーリに乗って金にも余裕がある状態から中流階級まで生活レベルを下げるのはきつい。

とはいえ、ジャックはifの世界線でもなんとか現状を良くしようと立ち回る。ジャックの思考は「お金があればもっといい暮らしができて、もっと家族が幸せになる」というもの。個人的にはこの考え方が間違っているとは思わないが、そうでない人生を否定するわけではない。幸福は人によって違うし、家族でゆっくり暮らすのも1つの幸せだ。

最終的に、お金第一よりも家族で暮らす人生をジャックは選ぶ。お金をたくさん稼いで、その幸せも理解した上でジャックが選んだという事は、愛する人と子供に囲まれて暮らす事はこの上ない幸せだったのかもしれない。そもそも比較するようなことではなかった、とも言えるが。

Ifの世界線で家庭を持つ幸せを選んだジャックだったが、結局元の世界に戻ることになる。そこでは金融会社の社長としてのジャックがいて、トラブルに見舞われている真っ只中。仕事が順風満帆だったからこそ感じていた幸せだったことに気づいた彼は、元の世界でもケイトを訪ねた。優秀な弁護士としてパリ支店を任されることになったケイトは引っ越しの真っ最中で、本作の冒頭のシーンの反対の状況になっている。ジャックがケイトを引き止めるのだ。

冒頭でケイトがジャックを引き止めた時、彼女は「嫌な予感がする」という抽象的な言葉でしか引き止めることができなかった。一緒にいてほしい、ただその一心でジャックに泣きついていたが、彼はそれでは引き止められなかった。

同じ立場になったジャックは、ifの世界で経験したケイトと子供たちのことを語りかける。ケイトは飛行機に乗るのを止めて、ジャックと話をすることにする。

この映画を最後まで観賞して思ったのは、ここまでの全ての物語は現実世界のジャックが新たな幸せを掴むための物語だったのかもしれないということだ。

仕事で成功して独身貴族を謳歌していた彼は、ケイトのことを忘れることができていなかった。あの時ロンドンへ旅立ってしまったことが、ずっと心に引っかかっていたんじゃないか。

彼はスーパーで強盗まがいの行為をしていたキャッシュという黒人青年に対し、なんでも持っているといった。でも本当は、ケイトとの幸せな暮らしも手に入れたかったのだ。現実世界で彼がその幸せを実現するためには、別の道を歩んで幸せな人生を送っているケイトを説得しなくてはいけない。そのための数週間だったのではないか。

この作品のテーマは「出世」と「家庭」の幸せを天秤にかけた時、どちらを選ぶか?というものだと思っていた。でも本当はそうではない。

「まだ君が手に入れていない幸せがあるよ、だから、一度考えてみないか?」

ジャックが迷い込んだIfの世界は、天使のくれた時間なのだ。

天秤にかけることじゃない。どちらかの幸せを諦めなきゃいけないなんて決まってないんだよ。私にはそんなメッセージに感じた。

良かった点

本作の良かった点は、ストーリーのキーパーソンに娘のアニーを使っている点だ。ifの世界で唯一ジャックの異変に気づいた彼女が、最後にジャックをパパと認める。子供の無邪気で飾らない態度によって、ジャックが現実の世界とは違う幸せに気づいたかどうかを表現している。

パパの皮をかぶった宇宙人から、本当のパパになる。もしかしたらアニーも天使だったのかな。

残念だった点

キャッシュの存在が宙ぶらりんすぎる。この作品では天使として登場しているわけだが、登場が唐突で違和感しかない。もう少しジャックをサポートする役回りとして登場させ、ifの世界での生活を支えてやるべきだったのでは。

ボウリングで明らかに浮いている描写とか、さすがにifの世界を表現するのにくどすぎやしないかと思ってしまった。

終わりに

誰しも考えたことのあるifの世界を表現した作品で、自分自身に投影するシーンもいくつかあった。

今の自分はどちらかというと仕事の幸せを求めて生きている。まあ、彼女もいないし作ろうとすら思っていない。

この作品を見て、家庭を持つことの幸せも少しだけ考えるようになった。

次に作品を見返す頃には結婚してたら面白いな。