伊達男の映画批評

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差別とは何かを考えさせられる「最強のふたり」レビュー


映画『最強のふたり』予告編

作品・出演者情報

監督

エリック・トレダノ

オリヴィエ・ナカシュ

キャスト

  • フィリップ - フランソワ・クリュゼ
  • ドリス - オマール・シー
  • イヴォンヌ - アンヌ・ル・ニ
  • ガリー - オドレイ・フルーロ
  • マルセル - クロティルド・モレ
  • エリザ - アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ

個人的レビュー

2011年のフランス映画で、実在の人物をモデルにした作品。

頸髄損傷で首から下が麻痺で動かせない富豪と、その介護をすることになった移民の若者の交流を描いている。

観たら分かる最高の映画だが、フランス作品らしく色々な差別について描写がある。

この作品を見れば、私たちが普段差別じゃないと思ってしている行動が当人にとっては差別的に感じることがあるかもしれないと気づくだろう。障がいを持っているから助けてあげなくてはいけないというのは健常者の思い込みで、実際は腫れ物のように触れられることが嫌いな人だっている。

そもそも、人助けは障がい者に限ったことではない。健常者だって困っていたら助けるはずだ。できないことは協力して乗り越えるのが当たり前だが、こと障がい者については「助ける」ことが何か特別な意味を持ってしまうことがある。それは私たちの中にある障がい者への特別視であり、見えない差別となりうる。

もちろん、全てが差別となるわけではない。助けてほしいタイミングで助けてと言えない人がいることは確かだし、人によって対応をあわせていかなくてはならない。

冒頭の面接のシーンで、多くの志望者が「社会貢献」「障がい者が好き」などといった薄っぺらい理由を並べていた。それを目の前で何人も見ていたフィリップは、そういうまともな介護人のお節介が嫌いなタイプの人間だった。だからこそ、ドリスの何者にも媚びない、正直な意見をする人柄に可能性を感じたのだろう。

障がい者に対して救いの手を差し伸べようと仰々しく立ち振る舞うのは誰が見ても気持ちの良いものではない。近年、24時間テレビ障がい者を利用したお涙頂戴番組だと批判されることが多いが、それは障がいを特別視していることに多くの人が違和感を持っているからだと思う。個人のパーソナリティとして認めることができていないのだ。人前で話すのが苦手だとか、走るのが遅いとか、障がいはそういうのと同じレイヤーで語るべき話なのだ。

ドリスはフィリップの乗った車椅子について「もっと速く走れないのか?」とフィリップ本人に言う。まるで俺に合わせろと言わんばかりに。だが、それはフィリップだって思っていることだ。合わせてもらうんじゃなくて、合わせたい。フィリップ自身がそう思っていたからこそ、車椅子の移動速度を限界まで上げる改造をした。「こうしてほしいんでしょ?」という姿勢ではなく、「このほうが良いだろ?」という目線の合わせ方が大事だ。価値観を押し付けてはいけない。

なるべくその人が生きたいように生きさせる。ドリスの介護の姿勢はそういうものだ。私たちが常識だと思っていることは本当に誰かの役に立っているのか、しっかりと考えていかなくてはいけない。

この作品への批判的なコメントとして、ドリスの口汚いブラックジョークが目に余るというものがある。もちろん人によって感じ方はそれぞれだし、マジョリティーの意見としてはブラックジョークが心地よく感じられないことは確かだろう。しかし、そういったマジョリティーの姿勢に正面から疑問を投げかけている作品だということを忘れてはいけない。ブラックジョークを不快に感じた人は、介護の面接で「社会貢献」と言ってしまう優等生タイプだ。自分の考えを多数決で決めていると言うべきか。今作は、そう思わない人がいることを知ってほしいという意図があるはずだ。

人助けとはどういうことなのかをしっかりと考え、本当に望むものを与える姿勢が大事だ。それは、障がいの有無に関係ない。フィリップとドリスの関係性から私たちが学ぶべきことはたくさんある。

良かった点

障がいについてがメインテーマだが、他にも色々な要素が詰まった作品であるところが素晴らしい。ドリスがスラム出身の黒人青年で腹違いの兄弟がいる点や、どぎついフレンチジョークがたくさん登場するところなど。

中でもドイツをいじるネタが多かったのは面白かった。ハンブルクの希少種とかね。笑

こういった寛容さは映画に限らず大切にしていきたいものだ。もし仮に平和じゃなく、戦争が起こっている状態なら、許されない表現だろうから。

これを見てジョークを楽しめることを幸せに感じるのって大事なのかもしれない。

残念だった点

特に残念だった点はない。人によってはジョークが過激で配慮に欠けると言うかもしれないが、それは作品の本質を見抜けていないだけだと思う。

常識は所属する組織によって違う。ドリスとフィリップの常識が世間の非常識であることは間違いないが、それを否定するのは見ている世界が狭すぎる。時代によっても、国によっても、性別によっても常識なんて違うものだ。その違いを楽しむ余裕を持って生きたほうが楽しいと思う。

終わりに

この作品はフランスで超大ヒットを記録した映画だ。過激な表現もあるので人によって好みは分かれるが、まずは一度見ておくことを強くおすすめする。

自分の価値観を疑うきっかけになるだろう。